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2023/2/16

吉野上市という不思議な場所

吉野町の上市地区は旧伊勢街道筋にあって、古来より東西、南北の交通路として栄えた場所です。奈良吉野はその昔南朝が置かれた場所、吉野山には一千年以上の歴史のある金峰山寺、南には熊野本宮、新宮、東にはお伊勢さんに囲まれています。万葉集で一番たくさん詠まれている地、吉野。祈りの聖地として山伏やお公家さんも多く行き交った地なのでしょうか。一方で庶民の営みも活発だったようです。地元の方によると昭和の初めごろまでは小さなこの地区に五軒もの呉服屋さんがあり、お宿の古い帳簿には酒樽用の吉野杉を灘などの酒所から買い付けに来ていたであろう人の名前が多く残っているのだとか。賑わいのあった町だったことが伺えます。

北村酒造の工場

吉野川沿いの国道から眺めると北側の斜面に身を寄せ合って建つ古い民家が並んでいるのが見えます。対岸には、製材所や貯木場など木を扱う工場が並んでいる風景。 上市の中心地は小さな上市蛭子神社さんがある郵便局前の広場、そこから細い路地が四方向に伸びています。北村酒造の醸造所に向かって少し傾斜した路地を上がっていくと、路地を挟んで四件の古民家が現れます。

時間が止まったような場所。でもさびれているというわけではなくて、大切に住み続けている人々の息遣いが感じられます。

そのうちの一軒に偶然にも出会ってしまったというわけです。

外に面した格子建具の美しさ、二階からの路地の眺め、2021年3月、早春の陽光が降り注ぎ、ぼんやりといつまでも眺めながらも、すでに自分が不思議な時空に旅をし始めていることにはまだ気がついてはいなかったのです。

母屋二階からの眺め。お向かいのK邸がとても素晴らしくて心を決めた理由の一つ。